ヨガをしたあとに味わう爽快感。汗をかくほどではないのにこの爽快感はどこからくるの?そう思った人もいるともいます。それは、呼吸を意識してポーズをとっているから。ヨガはこれを重視しています。単に自分の体に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するだけではありません。
ヨガにおける呼吸は、空気とともにプラーナと呼ばれる生命エネルギーも取り入れていると考えられています。そして、その流れをよくするための呼吸法があります。(プラーナは、東洋医学の「気」として捉えるとわかりやすいです)
呼吸法には大きくわけて2つあります。ポーズと一緒にできるものと、瞑想前に行い、プラーナのつまりをよくするためのもの。ここでは、レッスンでよく使う5つの呼吸法を解説します。
心肺機能が上がる
当たり前かもしれませんが、息が浅いと横隔膜の動きが悪く、十分な酸素を体内に送りこむことができません。体内の酸素が不足すると、病気に対する抵抗力が落ちると言われています。
それを改善するため、呼吸法で横隔膜を含む呼吸筋を意識的に動かし、心肺機能を高めます。 心肺機能が上がると疲労が出にくく体力がつきます。また、腹式呼吸は、腹圧で内臓をマッサージするので、胃や腸の働きがよくなる。便秘の解消にもいいとされています。
自律神経が整う
私たちが呼吸をするとき、横隔膜や呼吸筋が動きます。呼吸は、酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出すだけではありません。呼吸の際に胸腔と腹腔の圧力が変化し、血液を心臓に戻すポンプのような役割を果たしています。これを呼吸ポンプといいます。
息を吸うと、呼吸ポンプによって腹腔が圧迫され、下大静脈の血流が促進されます。それと同時に、胸腔内の圧力が低下し、静脈血の流れが改善。これらの作用が静脈還流(静脈内の血液の流れ)を促進し、交感神経が活発になります。
また、深い呼吸は横隔膜を大きく動かします。横隔膜の動きは腹腔内の内臓、とくに迷走神経を刺激。迷走神経が副交感神経を活発化させます。それが続くと、心身がリラックスした状態になります。
さらに、4拍で息を吸って、4拍で吐くなど、呼吸を一定のテンポで繰り返すことも自律神経が整う要素の一つです。
リラックスしたいときは、呼気をゆっくり長くすることが効果的。4拍で息を吸い、8拍で息を吐くなど、意識的に吐く時間を長くすると、心拍数が低下し、血圧が安定します。そして、副交感神経系の活動が促進され、心身がリラックスします。
プラーナ(気)の流れを整えるため
プラーナの循環は2つのエネルギーのバランスで成り立っていると言われています。それは自律神経に似ていて、一つは活気が流れる交感神経に似たもの。もう一つは、ゆったりした静的な気が流れる副交感神経に似たものです。
また、プラーナはつまりやすく循環が滞りやすいと言われています。それは気持ちにもあらわれます。活気が流れる気が強いときは、イライラしたり、気が立って、怒りっぽくなる。また、静的の気が強いときは、疲労感やけん怠感が生まれ、消化不良を起こすことも。
この乱れについて、ヨガの教典、ハタヨガ プラディーピカ―(ハタヨガについて編纂したもの)に、こう書かれています。
息が迷えば心も乱れ、息が鎮まれば心も鎮まる
ハタヨガ プラディーピカ―、スヴァートマーラーマ
これは、日常生活でもその様子がうかがえますね。忙しいとき、焦っているとき、緊張しているときは息が浅く荒くなる。また、気分が落ち着いているとき、気持ちが安定しているときは息がゆったりして深くなる。
ヨガに呼吸法やポーズがあるのは、浅くなる息を深くし、プラーナの循環をよくするためと説いています。
これから解説する5つの呼吸法は、ヨガスタジオやオンラインレッスンでよく使われています。呼吸法は実践するだけで、体や気持ちの変化がでてきます。自分の心を落ち着かせるときに活用してくださいね。
腹式呼吸
一番世間に知られている呼吸法です。呼気、吸気に合わせておなかを膨らませて、へこませます。呼吸にあわせて体幹や横隔膜を使って、おなかを大きくして平らに戻す。この動きで腹圧をコントロールします。
腹式呼吸は副交感神経を優位にさせ、体内エネルギーを沈める効果があります。特にリラックス系や、夜の時間帯がおすすめです。また、日中でも過緊張や気分が優れないときは、この呼吸をして気持ちを落ち着かせましょう。
ただし、交感神経が優位な日中に、率先してするのは避けてくださいね。 自律神経を乱すキッカケを作りかねません。
胸式呼吸
腹式呼吸とは違い、胸を使った呼吸法です。息を吸うときにろっ骨間筋などの呼吸筋を広げ、息を吐くときに呼吸筋をしぼませます。ろっ骨が前に出てきやすいので、肺を横に広げるイメージを持ちながらしてください。
また、おなかを使わないので下腹部に力が入りやすくなります。腹式呼吸だと体幹が緩みポーズが安定しない、レッスン中に息がしづらくなるときは、この呼吸法をしながらポーズをとりましょう。
そして、胸式呼吸は交感神経を優位にさせ、体内エネルギーを活性化にさせる働きがあります。フローヨガやパワーヨガなど動きが多いレッスン、朝や日中の時間帯におすすめです。
完全呼吸
Yogic Breathing と呼ばれ、鎖骨からおなかまで使う呼吸法です。簡単にいうと、胸式と腹式を合わせたようなもの。息を吸うときは腹部、胸部、鎖骨部(肩、首の部分)の順でふくらませ、息を吐くときに鎖骨部、胸部、腹部の順にしぼませます。
上半身全体を使っているので活力がみなぎる呼吸とも言われています。スムーズにできるようになったら、ポーズと一緒にしてみましょう。太陽礼拝や常に体幹をつかうレッスンなどにおすすめです。
ウジャイ呼吸
アシュタンガヨガで用いられる胸式呼吸法です。吐くときに、鼻から抜ける空気の摩擦音を響かせます。小さな寝息を立てながら息を吐くイメージでしましょう。
ポーズに集中しづらいときに、この呼吸法で自分に集中します。はじめのうちは、音がなりづらいかと思います。目を閉じ
て耳もふさいで、呼気の音に集中しましょう。 なお、浄化法でおこなうウジャイ呼吸は、この限りではありません。喉をしめて息をとめるので、他のものができるようになったら、専門の指導者のもので練習してくださいね。
片鼻呼吸(ナーディ―ジョーダナ)
片鼻呼吸はプラーナの循環(気の循環)をよくさせる呼吸法です。酸素が脳に直接入ったような気分になり、頭がスッキリした感覚も味わえます。
片鼻で吸って、息をとめ、もう片方の鼻から吐く。つぎに、息を吐いた鼻から吸って、息をとめ、片方の鼻で吐く。これを繰り返します。鼻の通りがよくないとき、これをすると改善することもあります。
ただし、無理は禁物です。息苦しく感じるときや鼻の通りがよくないときは、鼻を完全にふさがずに少し開きましょう。詰まっていると感じるほうは、最大限で空気を取り込み、吐き出すようにします。
鼻の通りが良くなってきたら、手で押さえながら続けます。それでも、苦しく感じたら、いったん中止して、普段の呼吸に戻して息を落ち着かせます。
また、鼻の疾患をお持ちや、鼻づまりがひどく薬を服用している人は、この呼吸法に適していません。治療に専念してから実践しましょう。
ストレスを強く感じたら、まずは息の状態を観察します。そして、ヨガの呼吸法で呼吸も心も整えましょう。呼吸に集中するだけで、ストレスや嫌なところから気持ちが離れます。それがキッカケで冷静になることもあります。
心を落ち着かせるために、ぜひ呼吸法を取り入れてくださいね。